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最高裁判所第二小法廷 昭和57年(行ツ)11号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

職権をもつて調査するのに、本件訴訟のように普通地方公共団体の数人の住民が当該地方公共団体に代位して提起する地方自治法二四二条の二第一項四号所定の訴訟は、その一人に対する判決が確定すると、右判決の効力は当該地方公共団体に及び(民訴法二〇一条二項)、他の者もこれに反する主張をすることができなくなるという関係にあるのであるから、民訴法六二条一項にいう「訴訟ノ目的カ共同訴訟人ノ全員ニ付合一ニノミ確定スヘキ場合」に当たるものと解するのが相当である。そうすると、本件訴訟を提起した一五名の第一審原告らのうち本件上告人ら五名がした第一審判決に対する控訴は、その余の第一審原告らに対しても効力を生じ(民訴法六二条一項)、原審としては、第一審原告ら全員を判決の名宛人として一個の終局判決をすべきところであつて、第一審判決に対する控訴をした本件上告人らのみを控訴人としてされた原判決は、違法であることが明らかである。

したがつて、本件上告代理人らの上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、さらに審理判断を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官木下忠良の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官木下忠良の反対意見は、次のとおりである。

私は、多数意見とは異なり、いわゆる類似必要的共同訴訟に属する訴訟であつても、住民が普通地方公共団体に代位して提起する本件のような訴訟にあつては、共同訴訟人の一部の者が上訴しても、それによつて他の者が上訴人としての地位を取得するものではなく、したがつて、本件において第一審判決に対する控訴をした一部の共同訴訟人のみを控訴人として終局判決をした原審の措置には格別の違法はないと考える。

そもそも、必要的共同訴訟において共同訴訟人の一部の者が上訴すればそれによつて他の者も上訴人としての地位に就くものと一般に解されているのは、要するに、本来合一的にのみ確定されるべき性質を持つ判決が区区になることを避けるための方法としてであるにほかならない。しかしながら、右のような目的のためには、必ずしもあらゆる場合において一部の共同訴訟人が上訴すれば他の者も上訴人としての地位に就くものとする必要はないばかりか、自ら上訴をせず上訴追行の意思を有しない者にも上訴人としての地位を付与し自ら上訴した者と同様の上訴審当事者としての権利、義務を課することはかえつて不当でもあり、訴訟経済に反するところでもある。

多数の住民が普通地方公共団体に代位して提起する本件のような訴訟は、当該公共団体が有する同一の請求権を多数の住民がいわば公益の代表者としての立場において行使するものである。この種の訴訟のこのような性質にかんがみるとき、私は、いわゆる類似必要的共同訴訟一般についてはともかく、少なくとも右のような訴訟にあつては、共同訴訟人の一部の者が上訴すれば、それによつて判決は全体として確定を遮断され、請求は上訴審に移審して、それが上訴審における審判の対象とはなるが、上訴審における訴訟追行は専ら上訴した共同訴訟人によつてのみ行われるべく、自ら上訴しなかつた共同訴訟人はいわば脱退して、ただ上訴審判決の効力を受ける地位にあるにとどまるものと解するのが相当であると考える。けだし、それによつて判決の合一的確定という要請は充たすことができるし、それがこの種の訴訟における当事者の意思に最も適合するところであると考えられるからである。

(裁判長裁判官 宮崎梧一 裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 大橋 進 裁判官 牧 圭次)

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